こんにちは!BMSL(@Basketball_MSL)です!
今回のテーマは、ディフェンスの練習方法についてです。
私は病院でバスケ選手のケガを治療することが多くありますが、その多くが練習による過負荷が原因で起こるものであると感じます。
特に多いのが、膝の前面部痛。
お皿のあたりの痛みですね。
つまり、スポーツ障害に分類されるような痛みです。
そういった選手が来院した場合には、必ず「ディフェンスの練習はどんな感じ?」と聞くようにしています。
なぜなら、バスケ選手の膝痛が不適切な姿勢でのディフェンス練習に起因していることが多いと感じているからです。
皆さんのチームは、どのようなディフェンス練習を行っていますか?
「伝統的なディフェンス練習」に要注意!
私もミニバスからバスケをやっていましたので、ディフェンス練習は相当こなしてきました。
例のやつです。
「腰を落として、上体を起こして胸を張り、ハンズアップまたは床をずっと触る」
「1・2・3 、1・2・3と半歩づつサイドステップでゆっくりエンドまで」
終わった頃にはモモがパンパンになります。
みなさんも、一度はやったことがあるのではないでしょうか。
私はこれを「伝統的なディフェンス練習」と呼んでいます。
さて、これはディフェンスの何を練習しているのでしょうか。
姿勢作り?ももの前(大腿四頭筋)の筋トレ?ゆっくり進む意味は?
それとも、なんとなくやっていますか?
この練習に確固たる理由をもっていない方は、この記事を読んで考え直していただければ幸いです。
やった感は出る練習ですが、果たしてその効果とは…?
「伝統的なディフェンス練習」に潜むリスク
実は、この練習には膝を痛めるリスクが潜んでいます。
もしかすると、あなたの指導が大事な選手をケガに導いているかもしれません。
姿勢
「腰を落として、上体を起こす」よく使われる言葉です。
しかし、これは場合によっては身体に強い負荷をかけます。
まずは「腰を落とす」をみてみましょう。
下肢には股関節、膝関節、足関節の3関節があり、これらが連動して動作(姿勢)を達成します。
腰を落とすとは、床面と骨盤の距離が縮まることを指すので、その方法はいくつかあります。
Aは膝を前に突き出し、踵を上げ、腰を落とす戦略。Bは股関節を大きく曲げ、上体を前傾させ、腰を落とす戦略。
どちらも腰を落とすという課題は達成していますが、戦略が違います。
ここに「上体を起こす」を加えると、
図で示した2つのうち、1つの戦略は使えなくなります。
つまり上体を起こすためには、股関節を深く曲げるわけにはいきませんので、結果的にAの姿勢になります。
実際に画像の姿勢を真似してみるとわかると思いますが、
Aの姿勢は大腿四頭筋(モモの前の筋肉)に強い負担をかける姿勢です。
これが「伝統的なディフェンス練習」で強いられる姿勢になります。
負荷量
筋肉への負荷は、重量と継続時間(筋肉が働く時間)によって調整することができます。
ダンベルを使った筋トレなどでは、
ダンベル自体の重さ(重量)と持ち上げる回数(継続時間)によって負荷量を調節していきますよね。
「伝統的なディフェンス練習」の場合、重量は自分の上半身で、継続時間はエンドからエンドまで行き着く時間となります。
もちろん、ゆっくり進めば進むほど筋肉への負担は大きくなりますので、上述の大腿四頭筋に強い負担をかける姿勢で行えば相当にハードな練習となります。
この「姿勢」と「保持時間」から考えて、伝統的なディフェンス練習は膝痛発症のリスクを非常に高めていると考えられます。
膝に負担のかかる姿勢で、ゆっくりとエンドまで。
リスク↑↑です…。
大腿四頭筋への過負荷は、成長期であれば「オスグッド・シュラッター病」、大人でも「膝蓋腱炎」といったスポーツ障害に繋がる可能性があります。
ディフェンス練習の本質を考える
この「伝統的なディフェンス練習」を慣習的に行っているチームにいくつか考えてほしいことがあります。
今すぐやめろ!というわけではありません。
「なるほど…」と感じていただいて、メニューの見直し等につながれば、医療者としてこれほど嬉しいことはありません。
特異性の原則
筋肉への負荷をかけるトレーニングには原理・原則があります。
ここで知っていただきたいのが「特異性の原理」です。
別記事にて詳しく書く予定ですが、この特異性の原則とは、筋肉が強くなるうえでのルールみたいなものです。
簡単に説明すると、筋肉は「トレーニングした時の角度」、「トレーニングした時の重さ」、「トレーニングした時のスピード」に則って強くなるというものです。
つまり、ゆっくりしたトレーニングでは、ゆっくりと動くための筋肉が出来上がるということ。
「伝統的なディフェンス練習」の、ゆっくりエンドまで行くという練習は、競技動作としてのディフェンスには効率的とはいえないということです。
な、なんと!
試合中のディフェンス姿勢
ディフェンス練習である以上、実際の試合でのことを考える必要があります。
指導者の中には、「ディフェンスは常に低く!」を良しと考えている方がいらっしゃいますが、これは実際とは異なるイメージが先行してます。
ディフェンスは大まかに、ボールとの位置関係、相手との距離、によって姿勢を変える必要があります。
つまり、常に低くあることはディフェンスにとってデメリットとなるケースもあるのです。
1対1の場面であっても、先程の図で示した2つの姿勢(AとB)を使い分ける必要があります。
5対5のゲームになれば、姿勢の使い分けは更に増えます。
そういった理由からも、エンドからエンドまで同じ姿勢で、しかもゆっくりサイドステップを行うという練習が、どれほ効果のあるものなのか考えてほしいです。
これからのディフェンス練習
まず、障害予防という観点から「腰を落として、上体を起こす」という姿勢(図のA)が、膝に負担をかける姿勢であると知る必要があります。
その上で、実際の試合でこの姿勢(A)はどのように使われているのか?を考えなければなりません。
あえて膝に負担のくる姿勢で、実際に使わない速さ、継続時間で練習することはケガのリスクを高めます。
ディフェンスにおいて重要なことは、オフェンスの進路を妨害するために速く動けることです。
あるいは、周囲を見渡し、すぐにフォローに行けるように準備する、といったことができればそれで良いのです。
これからのディフェンス練習は、常に低くあることを良しとするのではなく、相手の状況によって自分の姿勢を変えられる、といったことに重きをおくべきだと思います。
ディフェンス練習の提案
例えば、先程の図のAの姿勢ですが、
記事では膝への負担が強い姿勢と書きましたが、実は、実際の試合ではよく使います。
上半身を垂直に起こし、腰を落とすディフェンス姿勢は、相手との距離が非常に近いシチュエーションで使うことが多いです。
写真はハーデン選手vs八村選手ですが、まさにこういった押し合いの状況でよく使うのです。
ただ、こうしたシチュエーションでは、同姿勢を何十秒も取り続けることはない、という点は抑えておきたいです。
ということで、そのシチュエーション、保持時間を加味してメニューを考えてみました。
OFとDFの二人組
- エンドからフリースローラインまでDFは押されながら下がる
- 8秒間OFとDFで押し合う
身体接触も伴うので、楽な練習にはならないと思います。
姿勢の継続時間も短いので、膝への負担も少なくできるでしょう。
正解はないと思いますが、実際の動きを想定して、より効率的な方法を選択すべきかなと思います。
おわりに
伝統的なディフェンス練習にはリスクが潜んでいます。
実は、先日伺った体育館で「伝統的なディフェンス練習」に出会ったため、今回記事を更新しました。
「伝統的なディフェンス練習」はとってもキツイので良い練習のように感じることもありますが、本当はただキツイだけの練習です。
大腿四頭筋の負担が強すぎるため、膝痛の発症のリスクも上がります。
キツイ練習を否定するわけではありませんが、せめて、競技に活きるキツさがいいですよね…。
是非、今一度ディフェンス練習を考え直してみましょう!
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