チーム内にオスグッドと診断された選手がいます。
どう対応すればよいのか、今後どうなっていくのか気になっています。
成長期のスポーツにおいてオスグッドは珍しいケガではありません。
実際のケースをご紹介しますので、参考にしていただければ幸いです。
この記事では、オスグッド・シュラッター病(以下、OSD)の実際のケガから復帰までをケーススタディとしてご紹介します。
OSDを発症してから、どの様に復帰していくのか、その流れがイメージできるかと思います。(※個人情報保護のため、一部加工しています)
当然ですが、回復には個人差があります。
この選手よりも速く復帰できる選手もいれば、もっと時間のかかる選手もいます。
ただ、この記事によって、ある程度の流れはイメージできるようになるかな、と思います。
それでは参りましょう!
- 本記事の筆者
ケース情報
この選手はミニバスで出会った男の子でした。
基本的な情報は以下のとおりです。
- 年齢:小学校5年生
- 性別:男の子
- 競技:ミニバスケットボール
- 練習頻度:週3回 3時間程度
- これまでの怪我:捻挫などあり
- 訴え:練習時、練習後の左膝痛。なかなか良くならない。
練習頻度も同じ感じかな。
痛みの訴えも似ているかも。
このあと詳しく出てきますが、注意しなければならないのは、
「練習時間(頻度)が長い=オスグッド」ではないということです。
たしかに、別チームはもっと練習時間も長いのに、
全員が痛くなるわけではないしな…
これ、
オスグッドを発症するリスクの高い選手・低い選手がいる、ということなんです。
なるほど…
気になります!
経緯
どのような経過をたどっているのかも見ておきましょう。
この選手は、医師の診断を受ける4ヶ月前から痛みを自覚していました。
その後、気にせずにやっていたところ、試合の後に痛みが増悪したとのことです。
近くの接骨院にいったところ「成長痛」と言われ、そこで週3回ほど電気やマッサージの治療をしていたようです。
に、似ている…!
しかし、痛みは良くならず、歩いているだけても痛みが生じたため、不安になり病院に。
レントゲンの検査の後、医師から「オスグット・シュラッター病」といわれ、スネの骨が少し剥がれていることを指摘されたとのこと。
その医師に、痛くなくなるまで運動の中止の指示を受け、現在も休んでいる。
練習を休み始めてから2ヶ月。
本人も保護者も、今後どうなっていくのか不安でなんとかしたいが、
指導者もどうして良いかわからず、とりあえず休ませているという状態。
うちの選手も「成長痛」と言われたそう…。
この時期の子には仕方ないのかな…。
「成長痛」は広く知られている名前ですが、正しい意味とは異なった認識で広まっています。
スポーツ障害と成長痛はしっかり分けて考える必要があります。
ぜひ、下の別記事をご覧ください。
スポーツ障害か!
これも聞いたことあるぞ!
身体の情報
さあ、実際の痛みや体の状態について書いていきます。
体育館で相談を受けた当時の記録です。
痛み
- 左スネの骨(脛骨)、お皿(膝蓋骨)の下の部分に痛みの訴え。
- 骨の出っ張りあり。
- 押して痛みあり(圧痛+)
- 炎症所見(熱感、腫脹、発赤)はなし。
- その他:モモの筋肉(大腿四頭筋)に圧痛+、ふくらはぎに圧痛+
スネの出っ張りと圧痛はまさにOSDの所見です。
膝周りの筋肉はパツンパツンでした。
可動域
- 膝の曲げ伸ばし(屈曲、伸展):屈曲最終域で痛みあり。伸展は問題なし。
- 股関節:全体的に硬い。特に伸展。
- その他:お尻の筋肉(大殿筋)、ハムストリングスが非常に硬い。
膝自体が硬いということはありませんでした。
ただ、股関節、とくに裏面についている筋肉の硬さが目立ちました。
お尻とモモ裏の筋肉ですね。
筋力
- 弱い筋肉 腹筋、大殿筋、ハムストリングス
- 強い筋肉 大腿四頭筋、ふくらはぎ
いわゆる体幹の筋力は不十分で、先ほどの硬い筋肉は、使ったことがない?というレベルで弱い印象です。
逆に大腿四頭筋のボリュームは十分すぎるほど。
こういった体の特徴に”リスク”が潜んでいるのか…?
その通り!
体の特徴によって、OSD発症のリスクは把握できると思っています。
姿勢・動作の特徴
- 基本的にどの姿勢でも背中が丸い
- DFの姿勢で常に膝がつま先より前にある
- 股関節が曲がらない
こういう選手はたしかによくいるな…
この姿勢・動作の特徴は、先ほどの可動域、筋力が大きく影響します。
ハムストリングスが硬ければ、股関節は曲がらず、DFの姿勢で背中が丸まる、といったように。
なるほど。
そうすると、OSDに関係する大腿四頭筋ばかりの動作が増え、リスクが高まると言えます。
つまりOSDを発症すると…?
いえ、一概にそうは言えません。
ここに冒頭の、練習頻度(時間)の要素が絡むかどうかが重要ポイントです。
というと?
どんなに体の使い方が悪くても、練習量が少なければ、発症しないことが多いでしょう。
逆に、正しい体の使い方をしていても、練習量が度を越せば、発症リスクは高まります。
なるほど!
体の使い方、練習量、この2つの要素がOSDの発症に関係すると!
そのとおりです!
復帰までのコンセプト
さて、ではOSDの選手はいかにして競技復帰を目指していくのでしょうか。
まず、こうした選手が競技に復帰するにあたって、大切な6つの目標があります。
- 医師の診察は定期的に受ける
- 股関節の柔軟性の改善
- 下肢後面の筋力強化
- 体幹機能改善
- 動作の改善
- 段階的な復帰
それぞれ見ていきます。
1.医師の診察は定期的に受ける
まずはここです。
「もう来なくてもいいよ」と医師に言われた場合を除き、診察には行くことが大切です。
状態の悪化や、別のケガの可能性も含めて、やはり専門家である医師に状態を見てもらうことは必須。
何もしてくれない、と感じることもあるでしょうが、必ず診察に行きましょう。
2.股関節の柔軟性改善
この選手もそうですが、OSDを発症する選手は股関節が硬いことが多いです。
特に、股関節の屈曲ができないことが多く、その結果、膝に負担が集中しています。
股関節の後面筋(大殿筋、ハムストリング)を中心として、よく動く股関節を獲得する必要があります。
3.下肢後面の筋力強化
もともと股関節が硬くて曲がらない場合、筋肉も弱っていることが多いです。
この選手もそうですが、
硬くて動かない→使えない→筋肉は強くならない
ということになるのです。
なので、柔軟性を獲得するのと並行して、筋力の強化もしていかなければなりません。
上手にトレーニングすることで、筋トレによって筋肉が柔らかくなる場合もあります。
筋トレって体が硬くなるのかと思ってた…。
そんなことないんです。
4.体幹機能改善
股関節が硬くて上手く動かない人は、体幹がよく動いてしまう場合があります。
詳しくはこちら↓↓で解説しています。
この理論を子供達に当てはめると、
「体幹が弱く、過剰に動いてしまうから、股関節が硬くなる」
と考えることもできるのです。
つまり、体幹のそもそもの役割、動きの土台としての役割が果たせていない場合、どんなに股関節を強く、柔らかくしても効果は半減してしまうでしょう。
股関節のレベルアップには体幹の機能改善が欠かせません。
体幹が大切ってよく言うけど、そういうことなのか。
おそらく、多くの専門家はそう考えているはずです。
5.動作の改善
2〜4の項目に改善が出てくると、動作(ディフェンスの姿勢など)にも変化が出てきます。
それは、実際にそのほうが効率よく、強く動けるからです。
ただ、「これまでやってきた経験」というものが動作改善の邪魔をする場合があります。
これは、頭で覚えている場合もありますが(このときはこの姿勢だ!)、体が覚えている場合もあります。
もし、体が非効率的な動きをしっかりと覚えてしまっている場合、効率の良い動き方を新しく覚えてもらわないといけません。
動きの中で姿勢をチェックしたり、修正したりする作業がここになります。
体が覚えてしまっている動きの修正か…
これまでは、硬さや弱さが原因で「できなかった動き」ですね。
改善により「できるけど、やれない」状態なのであればもったいないので、修正すべきでしょう。
6.段階的な復帰
重要ですね!
その通り!
今回のように、痛みによって競技を離脱しているような選手の場合は、特に段階的な復帰が必要になります。
競技を離脱しているということは、それだけで全身の活動量が低下していることを意味します。
つまり、痛いのは膝でしたが、競技離脱によって起こるのは全身的な体力低下、筋力低下です。
痛みがとれたからといって急に復帰してしまうと、体が動きについてこれず、別のケガをする…というのはよくある話。
焦る気持ちを抑えて、復帰していくことが大切です。
指導内容
この選手にはコンセプト
- 医師の診察は定期的に受ける
- 股関節の柔軟性の改善
- 下肢後面の筋力強化
- 体幹機能改善
- 動作の改善
- 段階的な復帰
の2.3を中心に指導しました。
こうした若く、エネルギッシュな選手の場合、体のどこかに変化が起こるとそれに合わせて全身的に機能が向上していくことを経験します。
特に股関節は、トレーニングしやすく(本人にも理解しやすく)、効果が出やすい部位なので、まずアプローチすることが多いです。
たしかに、いきなり体幹だと???になる選手も多いかも!
具体的な内容は大きく3つ。
- 大殿筋のストレッチ
- ハムストリングスのストレッチ
- 下肢後面のトレーニング
です。
別記事で紹介している内容ですので、参照にしていただければと思います。
大殿筋のストレッチ
ハムストリングスのストレッチ
下肢後面のトレーニング
この記事の後半部分に書いてあります。
選手だけでなく、保護者、指導者の方にもお伝えしました。
ケガや痛みとの戦いは、選手だけが進ものではありませんからね。
なるほど!
理解、協力ですね!
指導後の経過
病院で担当したわけではないので、介入は指導による自主練習がメインとなります。
そのため、次に私が体育館に来る時までに、どれだけ身体に変化が起きるか、ということなのですが…。
はたして…
1ヶ月後、体育館に訪れると、なんと、男の子は笑顔でバスケットをしていました!
話を聞くと、主治医と相談し、完全に痛みがとれなくとも、管理ができていれば復帰が許可されたそうで、
私の訪れた次の週から練習に復帰し始めたようです。
肝心の痛みは、試合練習の後に少し痛い程度まで減少し、プレーの強度も徐々に上げているとのこと。
順調に回復している印象でした。
主治医の方針により、
「プレーしながら治していく」という、この選手にとっては最高の選択ができたかなと思います。
「プレーしながら治す」
これが叶うならたしかに最高かも。
選手にとって完全安静は苦しいですもんね。
一般の方が医師とコミュニケーションをとるのは難しいですが、
ある程度の知識と、どうしたいのかを伝えることができれば、相談に乗ってくれる先生もいるんです。
この選手はわけも分からず…って感じでしたからね…。
嬉しいことに、自主練習は毎日徹底して行っていると保護者の方からもお話がありました。
重要な身体の変化は…というと、
一番大きく変化した点は、大殿筋、ハムストリングスの柔軟性でした。
正直なところ、これによって痛みが減少したのかはわかりません。
ただ、実際に変化が起こっているので、これが動作の負担軽減に関与した可能性は十分にあります。
大殿筋やハムストリングスの柔軟性は股関節の動きに大きく関係してきます。
これにより、
硬い→動かない→弱くなる→使わなくなる→更に硬くなる
の悪循環から開放され、身体機能が良い方向に回り始めたのかなと思います。
股関節の機能改善が、体幹やその他部位の改善を引き起こし、結果、パフォーマンスが向上するというのはよくある話なんです。
へぇー!
だからまず股関節なんですね。
そうですね。
まず反応を見るために、試すことが多いです。
もちろんこれ以上のレベルアップを目指すのであればさらなるトレーニングが必要になるのですが、
「痛みなく、楽しく」の段階を目指すのであれば、まずはOKでしょう。
まとめ
お疲れさまでした。
最後に簡単にまとめますね。
おねがいします!
まず、たった1回の指導でこの選手の痛みが軽減し、復帰ができたのは、
- 自主練習が継続できたこと
- 医師とコミュニケーションが取れたこと
の2つが主な要因であると思っています。
やはり、専門家である医師の診断を受けた以上、その方針に従うのが基本です。
ちなみに、医師の診察を受けていない痛みの相談の場合、
私も積極的な指導はしないようにしています。
その医師とコミュニケーションが取れ、練習参加の許可がもらえたことは、この選手のモチベーションに大きく貢献したでしょう。
そのおかげで、自主練習も継続できたのだと思います。
自主練習のポイントは
- 股関節の柔軟性
- 下肢後面の筋力強化
でした。
特にオスグッドのような膝前面痛を訴えるケースでは重要な部分になります。
今回のように、若いエネルギッシュな選手の場合、
「何かが改善すると、他の部分もそれに引っ張られて改善していくこともある」もポイントになるでしょう。
まず、なにか変化を起こすことですね。
その通り。
できるだけ効率的に、効果的な変化を起こしたいものです。
いまオスグッドに悩んでいるのであれば、まず医師の診察を受けることをお願いしたいです。
そして、状態をみてもらい、今後の方針を立てましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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資料タイトル一覧
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